×アルバーン戦記〜4つの月〜 ウィルハの章‐5‐



 朝は不快な怒号で目が覚めた。

「赤いマントの男はいるか!」と。

 食堂では、食器が砕ける音がし、あちこちの扉が乱暴に蹴り破られる音がする。子供の泣き声が上がった、とたん消えた。

「貴様!」

 与えられた部屋から飛び出す。

「貴様らァ!!」

 暁姫が目の前の男に飛び掛った。まずは足、顔面に入れて体制を崩させ鳩尾に一発。見事。

「なにを、したか、わかっているの・・・か?」

 声が震えている。さっき聞こえた音をオレは思い出す。子供の泣き声が上がった、すると、とたんに消えた。

 今の。

 光景。

 床に刺さったサーベル。

 その隣に転がる、黒い。

 黒くて、白い。

 広がる赤。

 赤。



『姫!!』

「お前ら・・・っ!」

「ばかっ出てくんなっ!!」

 翼の声だろう。

「いたぞ!こっち・・・!」

 叫んだ憲兵の後頭部に、暁姫の踵がはいる。

「ウィルハ!お前、何をしている!?ウィルハ!?」

 翼が俺の方を揺らす。



 何かがフラッシュバックして。

 赤い、そう、血・・・が。



「ウィルハ!!」

 がつん。

「何やってんだてめぇ!」

 元々古くなっていた建物の壁を、蹴り砕き、破片をオレに投げつけた。そんな過激なことをやらかすのは勿論。

「きょう、き?」

「馬鹿者!何やってんだウィルハ!ンなとこ突っ立ってられたら困るんだよ。こんなん日常茶飯事だ、気にすんな。出てきたなら出てきたで、おとなしく連行されるか逃げるかしやがれ!!」

 日常茶飯事?

 泣き喚く子供の首が撥ね飛ぶのが?

 ところどころにある染みは、雨漏りやそんなんじゃなく?

 一切の抵抗が出来ない相手を殺すのが?

 何のためらいもなく殺すのが?

「冗談じゃねぇ!!」

 暁姫が大きく目を見開いた。

「日常茶飯事だ?ふざけんな!気にしねぇわけがねぇだろう!此処で逃げたら一宿一飯の恩すら返せねぇじゃねぇかよ!!国も国だ、兵隊も兵隊だ!無抵抗の相手を殺すのがそんなに楽しいか!虚しくもねぇのか!?だったらオレは、大人しく連行も逃走もしてやるかよ!思いっきり抵抗して反抗して殺されてやろうじゃねぇか!こいつらの腐った根性とかやり方とか全部否定しまくって変えてから逝ってやる!!」



 息が切れた。喉が変な音上げてる。心臓もばくばく言って、体が破裂しそうだ。

「演説は、それで終わりかね。」

 は、と息をついた瞬間に、二本のサーベルが俺の首の前で交差し、首には、内側の首の後ろに当たる部分に針の生えた鋼鉄の輪がはめられた。輪には長い柄がついており、柄を持つ者が、俺の後頭部に話しかけた。

 それも、思いっきり高圧的な声で。

 暁姫は呆然と膝をつき、翼は口の中で毒づいた。クオさんは、無残な子供の遺骸をじっとみつめていた。








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