×アルバーン戦記〜エゼキテル〜番外編 彗星(ルナフォード)風見の刃(ランディ・ラッセル)×


 少しだけ時をさかのぼる事にしよう。

 時は11年前。リチャオとチチャオとゆう二人の双子がアルバーン王室に生まれてから五回目の冬。

 セルガウスは目の前にある、菓子とはいいがたい、真っ黒の物体を嫌そうに見ていた。

「――くそ、また失敗だ」

 人に言わせれば、「無愛想が服着て歩いてる」と言われるこのセルガウス=ガッサディア=ハーバメント。一応王室料理人である。

「・・・あんた王室厨房(ここ)入ってもう5年もたつくせに、いまだに砂糖菓子も作れないの」

 セルガウスとよく似たコックコートを着た女性は、はぁ、と大きな溜息をついた

 焼き菓子とは、薄い焼き菓子の上に粗目糖をたっぷりとかけ、オーブンで少しだけ焼くとゆう、素朴なお菓子である。
 だがその焼き加減が微妙で、おいしい砂糖菓子が作れるようになるには、少しコツがいるのである。

「・・・五月蝿い、ロキ」

 ロキと呼ばれたその女性は、くるくるの癖っ毛を綺麗に結い上げ、コック帽子の中にまとめていた。
 名前はロキンヌス=ザッハロア=ハーバメント。セルガウスと同じく王室料理人であり、セルガウスの従姉弟である。

「あんた誰のおかげで王室厨房は入れたと思ってんのよ!元ガンナーの料理人なんて、物騒すぎて王室厨房どころか、町の居酒屋でだって雇ってくれないわよ!?」

「・・・」

 それを言われたら、セルガウスはロキに言い返せない。
 いや、それでなくても、セルガウスは小さい頃からこの気の強い従姉弟だけは苦手であった。

「お前だって、元ガンナーだろうがよ」

「私は良いのよ」

 この二人は今はアルバーンの王室厨房にいるが、昔はアルバーンの隣国であり同盟国の、アルデバラン機械国の機工師団の戦士であった。

 アルデバラン機械国は機械神子が治めている国だけあって、機工技術が他と比べられぬほど進んでおり、アルデバランの機工師団といえば有名であった。
 
 主に銃を使い、暗殺を得意としていたアルデバランの第3魔法機工師団”風の牙”に所属していたときに、アルバーンの王女であるハニー=リールゥ=アルバーンと出会い、アルバーンまでついてきたのだ。
 ハニーの力となり、国の反乱鎮圧に助力し、戦が終わった今、金を稼ぐためにやっていたガンナーとゆう職業を捨て、アルバーンで料理人へとなったのだ。

「何が私は良いのよ、だ。今だって肌身離さず持ってんじゃねぇのかよ。風見の刃(ランディ・ラッセル)

「あら、バレた?」

 茶目っ気たっぷりに舌を出して、ロキは袖からスルリと一丁の拳銃を取り出した。

 アルデバラン機械国の機工士は皆、たいてい自分のオリジナルの銃を所持しており、その銃に各々自分で名前をつけているのである。

 ロキは銃に魔法を込め、弾無しで使用する銃”魔銃”を扱うガンナーで、得意としていたのは風魔法であった。  ので、ロキの今手に持つ銃はロキのオリジナル・ガンで、主に風の魔法を込めて使い、名前を風見の刃(ランディ・ラッセル)と言う。

「護身用よ護身用。さすがに風花(ランフロア)は持ち歩いてないからいいでしょ」

「・・・場内で堂々と風花(ランフロア)を持ち歩いてたら即で警備兵にしょっぴかれるぞ。」

 ロキの本来の得物は、風花(ランフロア)とゆう名の成人男性の身長ほどある特大魔砲で、小型銃の風見の刃(ランディ・ラッセル)と同じように風魔法を込めて使うが、威力はかなり風花(ランフロア)の方が強い。
 対個人用の風見の刃(ランディ・ラッセル)と、対団体用の風花(ランフロア)といったところか。

「そーゆーアンタも、彗星(ルナフォード)持ってんでしょ?」

 ロキにチラリと流し目をされ、セルガウスはしぶしぶといった感じで袖から蒼い銃を取り出した。

「あーら、やっぱり綺麗に磨いてんじゃないの。」

「あたりまえだ」

 セルガウスの魔銃は彗星(ルナフォード)といい、小型で威力はそこそこだが、一度に6発発射される特殊な銃である。
 その蒼い魔銃は銃身に刻まれている”星の誓い”と呼ばれている紋章通り、明星魔法を込めて使う、セルガウスのオリジナル・ガンである。

 ロキはセルガウスの手から彗星(ルナフォード)をとり、じっと見つめる。

「・・・ねぇセルガウス。・・・あんた、アルデバランに・・・ガンナーに戻りたい?」

「・・・なんだよ、いきなり」

「こっちが聞いてんのよ。いいから答えなさい」

 先ほどまでとは打ってかわり、真剣な目で聞いてくるロキに、セルガウスは真正面から迷う事なく答えた。

「アルデバランは俺が生まれた国でもあるし、思い出もたくさんある。・・・だが、俺はもうアルバーンの王室料理人だ。今更、ガンナーに戻りたいとも思わないな。
 それに、料理をするのは人を撃つのよりも、楽しいからな」

 はっきりと答えたセルガウスを、ロキは安心したような目で見つめた。

 少しいつもと様子の違うロキに、セルガウスは心配そうに顔を覗きこんだ。

「・・・ロキ、それがどうかしたのか?」

「・・・別に、何でもないわよ。
 ・・・あんたがいまだに、人殺し大好きだったらどうしようって、姉心に思っただけ」

 ふわりと笑い、ロキは上機嫌に言った。

「私、たまに昔のアンタの夢を見るわ。
 アンタは人を殺す時も、練習用の的を打つかのように、一瞬も躊躇わずに引き金を引いたわね。
 私は人を打つときの、無表情なアンタの顔が感情の無い人形みたいで、嫌だったのよ」

 昔を思い出すように語るロキの言葉を、セルガウスはじっと聞いていた。

「いくらお金をかせぐための、生きるための手段といえど、何の躊躇いなく人殺しができるような人のままでいてほしくなかったのよ。アンタに。
 ・・・ま、その人殺しの手段である魔銃の扱い方を教えた奴が言うのも何なんだけどね。」

「ロキには、感謝してる。銃の扱いを教えてくれた事にも、ハニー様を殺すのを止めてくれたのも。」

 それは、あまり自分の事をしゃべらないセルガウスが心の底から思う言葉であった。

 その言葉を聞いたロキは、照れ隠しのようにセルガウスの持つ鉄板よりひょい、と真っ黒焦げの砂糖菓子をつまみ、口へいれた

「・・・不味い」

「・・・ほっとけ。」


「・・・それはそうとセルガウス。あんた別に菓子職人じゃないんだから、砂糖菓子ぐらい作れなくってもいいじゃない。」

 ロキはセルガウスの手元にある、真っ黒の砂糖菓子を覗き込む。

「・・・ちい姫様達にねだられたんだ。砂糖菓子が食べたいって。」

「・・・へぇ、ちい姫様達が。」

 ”ちい姫様”とは、この二人が忠誠を誓う、アルバーン王国の女王・ハニーの娘である、双子の女の子の事だ。

 顔はそっくりなのに、目の色も髪の色も違うこの二人の少女は、一部の人々に”呪い子”と呼ばれる事もあるが、ロキとセルガウスはあまりそれは気にしなかった。

 その上なぜか、セルガウスはその二人の姫に気に入られ、よく菓子をねだられるのだ。

「昔は『彗星の死神』と呼ばれた者が、今は子供のために菓子の練習をして四苦八苦してるなんて、世界も平和になったもんだわね」

「・・・そんな名前、もう忘れたな」 

 戦場で彗星(ルナフォード)とゆう、特殊な銃を操る機工士がいた。
 早撃ちを得意とした彗星(ルナフォード)を操るガンナーの強さは絶大で、人々に”彗星の死神”と呼ばれ、恐れられていた。
 ”彗星の死神”・・・彼は受けた指令は、必ず遂行したとゆう。
 ・・・ただ1件を除いては。

 その指令は”アルバーン月闇国の女王・ハニーの暗殺”であり、その指令によって出会ったハニーとの出会いが、”彗星の死神”の人生が、大きく変えることとなった。
 だがそれはもう、昔の話。

「せーるーがーうーすー!砂糖菓子、できたぁ??」

 厨房の入り口から、翠の髪をした少女と、薄紫の髪をした少女が顔を出した。

「・・・ほれ」

 二人の姫に、セルガウスは無礼もいいとろこに先ほどの真っ黒な砂糖菓子を差し出した。
 じっと固まる姫二人。

「こんなまずそうなの、いらないー」

「なんだとコラァ!!」

 セルガウスの怒声に、二人の姫は『きゃー』と言いながらも楽しそうに笑い、一目散に逃げた。


 二人の姫が逃げ出した方を、ブツブツ文句を言いながらも優しい目で見ていたセルガウスを、
 安心した顔でロキが見つめてた。

――この三年後、セルガウスのがんばりもあって美味しい砂糖菓子をセルガウスは作れるようになる。
だがしかし、その頃にはロキは部屋にコックコートと風見の刃(ランディ・ラッセル)を残し、こつぜんとセルガウスの前から姿をけしていたのである――

 セルガウスは今、ロキがいなくなる前にまかされていた副料理長として料理をしている。
 料理をしている間でも、自分の彗星(ルナフォード)と、ロキが残していった風見の刃(ランディ・ラッセル)を、肌身離さず持ち歩いている。

 ロキの失踪から5年がたつ今でも、夜空を見上げ、セルガウスは一人呟くことがある。

「・・・ロキ、今どこにいる。俺、もう美味しい砂糖菓子を作れるようになったんだぜ。お前に食べてもらいたいんだよ、ロキ・・・」

 セルガウスの呟きを吸い込んだ夜空には、一つの彗星が流れた――



アルバーン王国の料理人・セルガウスのお話です。
書きはじめたときに考えていたのより、かなりシリアスになりました。
料理人sの話は、ずっと書きたかったのですが、こんな思わせぶりに書くと、もっと書きたくなりますね(マテ)
きっとエゼキテル本編で、セルガウスも再登場するでしょうし、もしかしたらロキも出てくるかもしれません。
まぁそれは、良い場面とお声があればとゆうことで(笑)

2004.05.07 おまめん