×アルバーン戦記〜4つの月〜 ウィルハの章‐1‐ ・・・っ。飲みすぎた。 頭を上げようとするが、頭の痛みがそれを押さえつける。 こんちくしょうめ。 昨日、ジルミット帝国最大の森を抜け、ジルミット帝国最大の都市に着いた。 広大で磁場の狂いやすい森を抜け、気が抜けた。テンションも上がる。宿を確保したら、することは一つ。酒だ。 酒の量はそんなに多くない。問題は、そう。濃度だ。酒は文化の一部である。そこの水でしか完成しないもの、原料がそこでしか栽培できないもの、国によって色々ある。北の大地が凍るような国では、水の代わりに酒を飲むのは有名な話。 説明も言訳も薀蓄もやめよう。今夜は飲もう。 だがしかし。 俺は酒に弱かった。そしてこの国の酒は、とてもとても、そりゃとても、強かった。のである。 ずきずきとうなる頭を抱え、一番安い部屋に運良く備え付けられた洗面台にのしかかった。大柄の俺が体重をかけたのだ。洗面台はあわてて悲鳴を上げた。弁償はごめんなので、手をかける場所を壁に代え、蛇口をひねって水を出す。ザアという音を頭に被るために蛇口をくぐろうとするが、安宿の洗面台は思いのほか、いや、俺の思慮が足りなかったのか・・・。狭かった。 頭の上で、ごきりとすごい音がしたが、俺も蛇口を後頭部に突き刺す羽目になった。 「そりゃあね、二日酔いの頭をすっきりさせたいって言うのは解るよ?」 「はあ。」 「そのために、頭から水を被りたいってのも解るよ?」 「はあ。」 「だからって、洗面台壊したってのは、いただけないネエ。」 「はあ。」 「・・・聞いてんのかい。」 「聞いてます。」 言って、何回目かのため息をついた。 木造だが、しっかりとした立て付けの宿屋兼日用雑貨店。中年の夫婦が営んでおり、旦那の方は、俺がぶっ壊した洗面台の修理に取り掛かっていた。多少釘の緩んだ椅子に座らされ、俺は、臙脂色の髪の隙間からだらしなく床を見つめている。 「弁償します。いくらくらいになりますか。」 少々幅の広い、親切だがしっかりしていそうな女将は、腕を組む。 「・・・ま、反省はしてるようだし、安い部屋だし、こんなもんだね。」 そういって、どこからかそろばんを取り出す。 「払えるかい?」 「・・・こ、これくらいなら・・・。」 びくびくしながら、玉を一つ動かす。 女将は、俺の顔を見る。 「これからどこいくの?えっと、アンドロマケー・・・さん。」 思わず答えに窮し、肩がびくりとなったのは、女将にも判っただろうか。 「・・・あ、あては、無い。・・・です。」 女将は、ふうん。と息をつくと、口を開いた。 「じゃ、これで勘弁したげるわ。」 「あ!・・・。」 「ただし!」 ありがとう。と言おうとした俺の前に、女将の人差し指が立った。 「ちょいとお使いしてもらえるかい?届けたらそのまま出てっていいから。トンズラはだめだよ。」 女将は、方目を閉じて見せた。 「用意するからちょっと待ってな。」 カウンタの向こうに消えた女将を尻目に、俺はまず、これから、極寒が訪れることになる財布を出した。 ×NEXT× |